「今月の逸品ver.2」第15回目はみくに龍翔館の「遊女の打掛」です。
今回は、江戸天明期(1781~89)の縫屋藤七が制作したと伝えられる三国湊の遊女の打掛です。キバに象牙、目にギヤマン(ガラス)、金糸銀糸を使った迫力ある構図で、二匹の龍の刺繍がほどこされています。
三国湊は、江戸時代から明治時代にかけて北前船の寄港地として繁栄しました。九頭竜川の河口に発達した三国湊にはかつて遊郭があり、湊の拡大に伴って町の端から端へとその場所を移していきました。地元に伝わる民謡「三国節」には、 酒は酒屋で 濃茶は茶屋で 三国小女郎は松ケ下 という一節があり、江戸時代初期、三国湊の町端にあった松ケ下遊郭が唄いこまれています。また、三国遊郭を舞台とした三国小女郎の物語は、近松門左衛門の「けいせい仏の原」をはじめとした芝居などにもとりあげられました。
三国湊に隣接する滝谷出村にも遊郭があり、『続近世畸人伝』に加賀の千代女とともに紹介された哥川がいました。教養が高く、俳諧に長けた遊女として語り継がれています。
額装された遊女の打掛は、北前船のコーナーでもひときわ人々の目を引いています。日本遺産「荒波を越えた男たちの夢が紡いだ異空間~北前船寄港地・船主集落~」に認定された三国湊の新たな側面を示す逸品として、ぜひご覧ください。
二代広重が描いたもので、三国湊の特徴をうまくとらえています。左上の和船の楫が上へ吊り上げられているのは、河口港のため水深が浅いことを示しており、遊女が描かれ遊興の地であることを伝えています。