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「今月の逸品ver.3」vol.20 木製の浮き「オオダマサン」瀬戸内海歴史民俗資料館
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  • 木製の浮き「オオダマサン」

    木製の浮き「オオダマサン」

「今月の逸品ver.3」第20回目は、瀬戸内海歴史民俗資料館の漁網用の木製の浮き「オオダマサン」です。

  下の写真の資料は、当館が所蔵する漁網用の木製の浮きで、山口県周防大島町浮島(うかしま)のイワシ船曳網の中心にある袋の口に装着されていたものである。この浮きにはエビス神の烏帽子のような珍しい形の板が立てられている。周防大島には昔からこのような形の浮きに大漁の神の「オオダマサン」が宿るという信仰があり、漁期には漁網を浮かすための浮きとして、また、その中心を示す標識としての役割も果たしたが、漁期以外は、漁網から外されて網の経営者の網元の家の神棚や床の間に神が宿るものとして祭られた。不漁が続く場合は、網元はこれまで使った浮きを同島の樽見神社に奉納した上で、島の楠の木を伐り、部屋に一晩籠もって家族の目にも触れないようにして、新たな浮きの「オオダマサン」を製作した。現在は浮きの材質が合成樹脂に変わったため、漁網に装着せずに、漁船の船内に祀られているが、オオダマ信仰は残り、浮きの製作も続けられている。漁民によれば漁網の中心の浮きはイワシが袋に入ると浮き上がり、これがサワラに追われて入る時は逆に沈むなど、その動きから魚の入り込みの違いが分かるという。生き生きとしたリアルな浮きの動きは、いつしかそこに大漁の神の存在を感じるような信仰を漁民に芽生えさせたのではないかと考えられる。嘉永4年(1851)の「安下浦年中行事」によれば、周防大島の旧安下庄で旧暦正月11日に「大魂(おおだま)祭り」が行なわれたという記録があり、ここではすでに近世末に「オオダマ」の名が現れていることが分かる。大分県佐伯市鶴見でも、昔の地曳網やアグリ網(まき網)の中心にこの烏帽子形の板を立てた浮きを装着し、これを大漁をもたらす「エビスサマ」として信仰した。同地の無人島の宇戸島では、このような形の浮きが祠に祭られて、現在でも隔年で「宇戸祭り」が行なわれている。祠には当初エビス像が祭られていたが、盗まれたので代わりに浮きを祭るようになったと言う。

 このように「オオダマサン」や「エビスサマ」などの名で呼ばれた浮きは、1年という短いサイクルの中で、網漁の道具となったり、大漁の神の依代となるなどその役割を変えた。生業の道具の多様で不思議な働き示す館蔵の逸品である。
(瀬戸内海歴史民俗資料館 専門職員 真鍋篤行)
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